PMIの失敗事例② 人材の一斉離職(経緯編)― 資格者の獲得を狙ったM&A
2026年9月17日、代表の伊藤祝が、アドバイザーを務める東京都中小企業振興公社の「令和8年度 第2回PMI(経営統合)セミナー」に登壇しました。
こちらのブログでは、当日参加できなかった方や東京都以外の事業者のために、セミナーの内容を全29回の連載でご紹介しています。今回は第5回です。
実際に起きた7つの失敗事例を、「経緯編」と「結果編」の2回に分けてお届けしています。経緯編では、結末をお伝えしません。読みながら、「自分が買い手の経営者だったらどうしたか」を考えてみてください。
前回までの事例①は、地域の慣習に関わる話でした(経緯編/結果編)。2つ目の事例は、従業員一人ひとりの働き方に関わる話です。
機械メーカーが、資格者のいる設備工事会社をM&A
ある機械メーカーが、事業領域を広げるため、設備工事会社とM&Aを行いました。
買い手の目的は、はっきりしていました。売り手で働いている、電気工事士や施工管理の資格を持った人たちです。こうした資格者や技術者を自社で一から採用し、育てるには時間がかかります。M&Aなら、資格と経験を持った人たちを一度に迎えることができます。
給料が高いわけではないのに、人が長く勤めていた会社
売り手は郊外にある会社でした。給料などの条件は、それほど良くありません。それでも、比較的長く勤めている従業員が多くいました。
従業員がこの会社で働き続けていた理由は、次のようなことでした。
- 家から近い
- あまり残業がない
- 休暇が取りやすい
- そして何より、人間関係が良い
特に、長年一緒に働いてきた仲間との人間関係が、人が辞めない大きな理由になっていました。
「良い人材が一気に手に入った」と喜ぶ買い手
M&Aが決まると、買い手は、資格と経験を持った人材が一気に手に入ったと大変喜びました。
一方、売り手の従業員は、さまざまな不安を抱えていました。
- 「出張が増えるんだろうなあ」
- 「工場設備の仕事だと、休日出勤や残業が増えるんだろうなあ」
- 「自分の仕事の内容も変わるんだろうか」

水面下で、外に目を向け始めた従業員
なかには、「どうせ環境が変わるなら」と、求人情報を見たり、人材紹介会社に登録したりする人も出てきました。
ただ、こうした動きは水面下のことで、表には出てきません。
あなたが買い手の経営者なら、どうしましたか
資格と経験を持った人材を一度に迎えられるのは、M&Aならではの利点です。人材の獲得を目的にしたM&A自体は、筋の通った経営判断です。
ここで、少し考えてみてください。
- あなたが買い手の経営者だったら、M&Aの後、売り手の従業員にどう向き合ったでしょうか
- 資格者や技術者に、これからも長く働いてもらうために、あなたなら何をするでしょうか
この事例がその後どうなったのかは、次回の結果編でお伝えします。
まとめ
- 機械メーカーが、電気工事士や施工管理の資格を持つ人材の獲得を目的に、郊外の設備工事会社をM&Aした
- 売り手は給料などの条件は良くないが、家から近い、残業が少ない、休暇が取りやすい、人間関係が良いといった理由で、長く勤める人が多い会社だった
- 買い手は良い人材が手に入ったと喜んだ。一方、従業員は働き方が変わることに不安を抱え、なかには求人情報を見始める人も出てきた
次回は、事例②の結果編です。M&Aから1年ほどたった頃に何が起きたのかをお伝えします。
【連載】中小PMIの事例から学ぶ 買い手側のリスクと対応策(全29回)(順次公開予定)
導入
第1回 中小M&AのPMIは、話が来た時から始まる
第2回 PMIとは何か ―― シナジーとリスク、3つの統合
7つの失敗事例(各事例とも経緯編・結果編の2回)
第3・4回 事例① 価値観の衝突
第5・6回 事例② 人材の一斉離職(第5回=本記事)
第7・8回 事例③ 仕入先の離反
第9・10回 事例④ 創業社長の退任
第11・12回 事例⑤ 何も変わらないM&A
第13・14回 事例⑥ 進まないクロスセル
第15・16回 事例⑦ 内製化の誤算
第17回 7つの失敗に共通していたこと
M&A前の準備
第18回 M&Aの目的を再確認する
第19回 売り手への理解を深める ―― トップ面談とDD
第20回 M&A後の経営体制と初動を準備する
計画と7つのツール
第21回 計画は書き出して初めて確かめられる
第22〜29回 7つのツールの使い方(検討開始シート/目的整理シート/M&A事業計画書/統合初動アクションプラン/100日アクションプラン/振り返りシート/再診断シート)

