PMIとは何か ― シナジーとリスク、経営・業務・意識の3つの統合

前回は、中小企業のM&Aでは話が向こうから来て、短期間で判断を迫られることが多いこと、そしてM&A後に考え始めると、経営者が判断すべきことほど後手に回ることをお話ししました(第1回)。

では、そもそもPMIとは何をすることなのでしょうか。今回は、この連載全体の土台になる考え方を整理します。

PMIは、M&Aの目的を実現するための取り組み

PMIは、Post Merger Integrationの略で、日本語では「経営統合」と訳されることが多い言葉です。ただ、私はPMIを、M&A後の統合作業ではなく、M&Aの目的を実現するための取り組みだと考えています。

M&Aの目的は、会社によって異なります。「事業を拡大したい」「人材や技術を獲得したい」「競争力を高めたい」、というように、さまざまな目的があります。

しかし、会社を譲り受けただけでは、その目的は実現できません。M&Aの後に、当初想定したプラスの効果を実現できるような経営をしなければなりません。

このプラスの効果を「シナジー」といいます。たとえば、次のような取り組みから得られる効果です。

  • 売り手の商品を、買い手の販売網で売る
  • 買い手の開発力と売り手の技術を組み合わせて、新しい製品をつくる
  • 両社の仕入れをまとめて、コストを下げる

シナジーだけでなく、リスクにも対応する

M&Aで生まれるのは、プラスの効果だけではありません。

買い手は、売り手の事業や人材、資産や負債を引き受けます。ですから、M&Aによって新しく抱えることになる経営課題やリスクもあります。

PMIでは、シナジーを実現するだけでなく、こうしたリスクに対応していくことも必要です。シナジーとリスクは、どちらか一方だけを見ればよいものではありません。 両方に向き合って、初めてM&Aの目的が実現します。

M&Aの実施から、シナジーの実現とリスクへの対応の2つを経て、M&Aの目的の実現に至る

M&Aを検討しているときは、どうしてもシナジーの方に目が向きがちです。リスクについては、この連載の後半(M&A前の準備)で改めて取り上げます。

PMIは、3つの視点で考える

では、シナジーの実現とリスクへの対応を、M&A後の経営でどう進めていけばよいのでしょうか。私は、次の3つの視点に分けて考えています。

M&Aの目的の実現を、経営の統合・業務の統合・意識の統合の3本の柱が支える
視点何を整えるか
経営の統合経営方針や経営体制、権限と責任、意思決定の方法
業務の統合業務プロセスや組織、人事制度やシステムを、どのようにつないでいくか
意識の統合歴史も社風も考え方も違う2つの会社が信頼関係をつくり、同じ方向を向ける状態

「統合」という言葉を使っていますが、必ずしも2つの会社を1つにするという意味ではありません。それぞれの視点で、何をそろえ、何を残すのかを整理する、くらいに考えてください。

失敗の理由は、業務のやり方そのものにあることは少ない

PMIというと、多くの方は業務の統合を思い浮かべると思います。実際に、次のような相談も多く寄せられます。

  • システムの統合がうまくいかない
  • 自社製品を売り手の営業に売ってもらおうとしたが、反発されて困っている
  • 製造拠点を集約しようとしても、現場が動いてくれない

ただ、私の経験では、失敗の理由が業務のやり方そのものにあることは、あまりありません。多いのは、次のような問題です。

  • そもそも、施策の効果とリスクをよく理解しないまま進めていた
  • 相手の状況を理解せずに、自社のやり方を押し付けようとした
  • 意図がきちんと伝わっていなかった

これらは、経営の統合や意識の統合に関わる問題です。業務を統合しただけでは、M&Aの目的は実現できません。 業務だけでなく、経営と意識の統合をどうするかまで考えて、M&A後の経営を組み立てる必要があります。

次回からは、7つの失敗事例を見ていきます

次回からは、実際に起きた7つの失敗事例をご紹介します。各事例は「経緯編」と「結果編」の2回に分けてお届けします。

経緯編を読みながら、ぜひ「自分ならどうしたか」「どの時点で何を確認しておけばよかったか」を考えてみてください。結果編では、事例で何が起きたのかと、そこから得られる教訓をお伝えします。

なお、取り上げる事例は、いずれも私が経営の現場に入って、実際に見たり経験したりしてきたことです。ただし、実際の企業や出来事が特定できないように、業種を変えたり、複数の話を組み合わせたりしています。

まとめ

  • PMIは、M&A後の統合作業ではなく、M&Aの目的を実現するための取り組みである
  • そのためには、シナジーを実現するだけでなく、M&Aで新たに抱えるリスクにも対応する必要がある
  • 進め方は、経営・業務・意識の3つの統合で考える。業務を統合しただけでは、M&Aの目的は実現できない

次回は、事例①「価値観の衝突 ― 地域慣習を無視した増産」の経緯編です。東京の食品メーカーが、地方の飲料メーカーとM&Aを行い、夏の増産計画を立てたところから話が始まります。

【連載】中小PMIの事例から学ぶ 買い手側のリスクと対応策(全29回)(順次公開予定)

導入
第1回 中小M&AのPMIは、話が来た時から始まる
第2回 PMIとは何か ―― シナジーとリスク、3つの統合(本記事)

7つの失敗事例(各事例とも経緯編・結果編の2回)
第3・4回 事例① 価値観の衝突
第5・6回 事例② 人材の一斉離職
第7・8回 事例③ 仕入先の離反
第9・10回 事例④ 創業社長の退任
第11・12回 事例⑤ 何も変わらないM&A
第13・14回 事例⑥ 進まないクロスセル
第15・16回 事例⑦ 内製化の誤算
第17回 7つの失敗に共通していたこと

M&A前の準備
第18回 M&Aの目的を再確認する
第19回 売り手への理解を深める ―― トップ面談とDD
第20回 M&A後の経営体制と初動を準備する

計画と7つのツール
第21回 計画は書き出して初めて確かめられる
第22〜29回 7つのツールの使い方(検討開始シート/目的整理シート/M&A事業計画書/統合初動アクションプラン/100日アクションプラン/振り返りシート/再診断シート)

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