株は売りません、お金だけ出してください──“誰かが負ってくれるリスク”という幻想
投資詐欺やネット詐欺について、私は常々疑問を抱いていました。
「なぜ、あんなに“うますぎる話”に引っかかるのか?」
ノーリスクで大儲けできる話など、常識的に考えればあり得ません。
それでも被害が後を絶たないのはなぜか――。
ある経営相談を通じて、その答えの一端が見えた気がしたのです。
1.「スポンサーを探しています」という社長
東北地方の金融機関から紹介された、日帰り温泉施設の社長との面談。
社長によると、施設は老朽化が進み、客足は減少。
原材料費の高騰もあり、赤字が続いているとのことでした。
それでも社長は前向きでした。
「施設をリニューアルして、宿泊設備を新設すれば黒字化できるはずです」
意欲はある。しかし、根拠や具体的な計画は語られません。
「資金はどう調達されるおつもりですか?」と尋ねると、
返ってきた答えが印象的でした。
「実は、その資金を提供してくれるスポンサーを探しているんです」
スポンサー?つまり出資者かと思い、念のため確認しました。
「株式を引き受けてくれる人を探している、と?」
「いえ、株は売りませんよ。
ただ、お金を出してくれる企業や投資家を探しているんです」
私は一瞬、言葉を失いました。
2.金融機関にも広がる“リスク回避の発想”
この温泉施設は、特色のない一般的な日帰り型。
老朽化も進み、競合との差別化も難しい状況でした。
宿泊機能を足したところで、集客が劇的に伸びるイメージは湧きません。
「どのような計画を立てているのですか?」と促すと、社長はこう答えました。
「計画は立てていません。やってみないとわからないし。
でも、きっとうまくいくと思います」
ある意味で正直ですが、現実はそう甘くありません。
さらに印象的だったのは、同席していた金融機関の支店長の一言でした。
「ご支援いただく場合、費用はどのくらいになりますでしょうか?」
赤字企業で再建計画もない段階で、“とりあえずお金を出してくれる人を探している”。
その話を、そのまま私に丸投げする──。
支店長は、赤字先に融資ができない状況で
「ファンドや投資家ならどうにかしてくれるかもしれない」と考えていたのでしょう。
つまり、ここでも「自分ではリスクを負わない」という発想が根底にあるのです。
3.“リスクを負わずにリターンを得たい”という幻想
この面談で痛感したのは、“出資=リスクを取る”という基本感覚の欠如でした。
社長はリスクを負わずに、誰かが資金だけ出してくれることを本気で期待していた。
そして驚くべきことに、その感覚を金融機関の現場担当者までもが共有していたのです。
これでは、詐欺師のつけ入る隙が生まれて当然です。
「元本保証で年利10%」
「今だけの特別な話があります」
そんな“あり得ない話”に人が騙されるのは、特別な人が愚かなわけではなく、
“リターンには必ずリスクが伴う”という感覚が、社会全体で育っていないからなのです。
4.“リスクとリターン”が理解されていない社会
日本では、「リスクとリターン」の関係を学ぶ機会がほとんどありません。
投資制度(NISAなど)は整っても、その本質理解が追いついていない。
「お金の話は人前でするものではない」
「投資は怖いものだ」
そんな文化が、金融リテラシーの育成を妨げてきました。
そしてその結果、
「誰かがリスクを負ってくれるはず」という発想が社会全体に根づいてしまったのです。
あの温泉施設の社長は、誰もリスクを負わないまま成功できる道を探していました。
しかし私は、“誰もリスクを負わない事業”が成功した例を見たことがありません。
詐欺がなくならないのは、詐欺師が巧妙だからではありません。
「自分はリスクを負っていない」
という誤解こそが、詐欺を生み出す温床なのです。
そして、その誤解を断ち切る第一歩は、
「この話で、誰がリスクを負っているのか?」
を、自らに問いかけることに尽きると私は思います。


