「売るな、聞け」がKPIになる日|業種別・Keyの見つけ方3事例
~ 中小企業の社長が知っておくべき『目標・KPI・利益』の考え方|第5回
前回は、KGI・KSF・KPIの構造と、「面談回数」「提案回数」という具体例を使って、
KPIをどのように計算するかを説明しました。
ただ、それをどのように使えば組織は変わるのでしょうか。
今回は、その疑問に答えるために、
実際にKPIを設定することで組織が変わった企業の事例を紹介します。
まず最初に、KPIの本質を一言で言っておきます。
KPIとは、売上を追う数字ではありません。
売上を生み出す「Keyとなる行動」を定義するものです。
1.「売るな、聞け」
最初は、アジアを主戦場に機械設備を販売するA社の事例です。
A社は若手社員を積極的に現地法人へ派遣していました。
しかし営業成績は長年伸び悩んでいました。
理由はシンプルです。
若手社員は製品知識を覚えるだけで精一杯で、
お客様の現場で何が起きているのかを理解できなかったのです。
結果として営業はこうなります。
「この設備を買ってください。」
それだけです。当然ながら売れません。
そこでA社が設定したKPIは、売上でも提案件数でもありませんでした。
「お客様との面談回数」です。
営業員へのメッセージは非常にシンプルでした。
「売り込みはしなくていい。
とにかく会って、話を聞いてきなさい。」
営業員は最初、世間話から始めます。
最近できたラーメン店の話
日本人フットサルチームの話
ゴルフで出したスコアの話
仕事の話ではないので、会話は弾みます。
そして、訪問を重ねるうちに少しずつ現場の困りごとが見えてきます。
この前、設備の動作でこんな問題があった。
あの部品、高いわりに寿命が短いんだよね。
A社製品は安いけど、小さなトラブルが多い。
営業員はちょっとした顧客の話を持ち帰り、
上司に「こんな話がありました」と報告します。
そこで、上司から「それはこういうことらしいよ」とか、
「それってこうすればいいんじゃない」などと言われたことを、
次の訪問時に顧客に話します。
この繰り返しで営業員は知識を増やし、
次第に会話の中身に仕事の話が増えるようになりました。
お客様と少しずつ仕事の話ができるようになると、
営業員のモチベーションも上がります。
こうして話を続けるうちに、営業員たちは
現地の日系企業が悩む共通の問題に気づきます。
それは、製品を設置した後のアフターサービスです。
現地の同業他社は、設備を設置するだけで、
アフターサービスは地場の提携会社に外注していました。
しかし、地場企業は、設備トラブルが起こっても、
なかなか修理にきてくれません。
その結果、工場のラインが、ひどいときは3日も止まってしまう
ということも少なくなかったのです。
そこで営業員たちはこの問題を何とか解決しようと、
自発的に他社製品のカタログを集め、社内で勉強会を始めました。
そしてお客様の工場で他社製品も含めた設備点検を始めたのです。
修理が必要な製品や交換時期が来た部品があれば、
その代理店に連絡するよう促す。
自社製品への乗り換えを迫るのではなく、
「お客様が設備を長く安全に使える」ことを支援する。
このサービスはお客様から非常に喜ばれ、
結果として自社製品の販売も大きく伸びました。
現在ではこのサービス事業はA社のコア事業に成長しています。
面談回数というシンプルなKPIが、
社員に「考える力」を与え、新事業を生み出した。
これがKPIの本当の効果です。
2.葬儀社のKPIは「税金セミナー」
次は地域密着型の葬儀社B社の事例です。
現在、葬儀業界では全国チェーンの大手企業が地方にも進出しています。
地域の葬儀社にとって新規顧客の獲得は年々難しくなっています。
B社が新規顧客獲得のKeyとして選んだのは「税金セミナーの開催」でした。
なぜ葬儀社が税金セミナーなのか。理由はシンプルです。
人が亡くなると、残された家族には数多くの問題が発生します。
相続税
不動産
銀行手続き
空き家
しかし多くの人にとって税理士や弁護士は遠い存在です。
そこでB社は
地域住民向けに相続・税金・不動産のセミナーを毎月開催することにしました。
セミナー参加者から個別相談を受け、必要に応じて専門家を紹介する。
その専門家が問題を解決すると口コミが広がり、
「あの葬儀社は色々教えてくれる」
という評判になります。
そして葬儀が必要になったとき、真っ先に連絡が来るのです。
B社のKPIは月次セミナー開催回数でした。
売上ではなく信頼関係を作る行動をKPIにしたのです。
3.小売店のKPIは「接点を持つ顧客数」
最後は小売業のC社です。
C社の経営者が最初に持っていた問題意識は
「なぜ新規客は来るのにリピーターが増えないのか」
というものでした。
そこで、調べてみると自社の売上構造が見えてきました。
来店客の8割は一度きりの購入で終わっており、
残り2割のリピーターが売上全体の6割以上を占めていた。
にもかかわらず、C社がそれまで力を入れていたのは
チラシや広告による新規客の集客でした。
データを見て、経営者は気づきます。
「力を入れるべき場所が、ずっと逆だった。」
新規客を獲得するには広告費や販促費がかかる。
しかし一度来てくれたお客様とは、すでに接点があります。
コストは低く、反応率は高いはずです。
そう考えた経営者は方針を変えます。
「追うべきは新規客ではなく、既存客だ。」
そこでC社が取り組んだのは、
当時としては新しかったメンバーズカードとメール案内の仕組みでした。
今となっては当たり前の手法です。
メールは埋もれ、カードは財布の肥やしになってしまうかもしれません。
しかし、手法は時代とともに変わっても、 本質は変わりません。
C社がKPIに選んだのは「接点を持つ顧客数」でした。
接点がある顧客が増えるほど、リピートの土台が広がる。
今ならLINEやアプリかもしれません。
ただ、手法は何であれ、Keyは変わらないのです。
多くの小売店が「来店客数」という結果を追いかける中で、
C社は結果ではなく、売上が生まれる手前を追いかけたのです。
その発想の転換が、リピーターを増やし、
口コミによる新規顧客の増加にもつながっていきました。
4.Keyは「売る行為」ではない
3社の事例は業種も規模も異なりますが、
共通点があります。
どの企業も「売ること」をKPIにしていない。
という点です。
A社・・・面談回数
B社・・・セミナー開催回数
C社・・・接点を持つ顧客数
一見すると売上とは直接関係ない数字です。
しかしその行動の先に信頼関係が生まれます。
そして信頼関係が売上を生み出します。
ではなぜ、多くの中小企業はこのKeyを見つけられないのでしょうか。
理由は一つです。
「売上から逆算して考える習慣」がないからです。
売上が下がると、多くの経営者は「もっと売れ」と言います。
しかし、「もっと売れ」はKPIではありません。
売上を生み出す構造、誰が、何をきっかけに、なぜ買うのか。
その流れを丁寧に辿ったとき、初めてKeyが見えてきます。
3社の経営者に共通しているのは、「売上を生み出す川上」
を見ていたということです。
5.KPIは「1つ」から始める
実務では、KPIを3つも4つも並べた結果、
「結局どれを優先すればいいのかわからない」
という状態になる企業をよく見ます。
KPIはまず1つから始めることが重要です。
行動を集中させなければ検証ができません。
検証できなければ改善もできません。
さらに、もう一つ重要なことがあります。
正しいKPIを設定するのは経営者の責任だということです。
売上が上がらないのは、営業員の責任ではなく、経営者の責任です。
経営者が間違ったKeyを選び、KPIを設定してしまえば、
社員がどれだけ努力しても売上は伸びないのですから。
経営者は、売上を生み出す構造を理解し、Keyを見つけ、KPIを決める。
社員は、そのKPIを達成するために知恵を絞る。
この役割分担が明確になったとき、組織は初めて同じ方向に動き始めます。
✅次回予告 ~ 売上は「川」である ~ Keyをどうやって見つけるか
次回は「そのKeyはどうやって見つけるのか」という話をします。
多くの経営者がKPIを作れない理由は、実はここにあります。
売上を生み出す構造をどう読み解くのか。
経営者が身につけるべき実践的な思考プロセスを紹介します。



