売上を増やす前に、売上を「分解」せよ ~ 利益を守るために経営者がまず考えるべきこと~

~ 中小企業の社長が知っておくべき『目標・KPI・利益』の考え方|第9回

ここまで、KPIの設計・事例・運用・モチベーションと話を進めてきました。
今回からは「利益を増やす」というテーマに入ります。

売上を上げることと、利益を増やすことは同じではありません。
売上が増えても利益が出ない会社があります。
その一方で、売上を大きく伸ばさなくても利益を改善できる方法があります。
まずは売上の構造を正確に理解することから始めましょう。

1.売上は分解できる

「売上はお買い上げ」という話を第1回でしました。
では、その売上はどのような要素で成り立っているのでしょうか。

売上はシンプルに2つに分解できます。

売上 = 客数 × 購入金額

売上を増やすためには、客数を増やすか、購入金額を増やすか。
このどちらかしかありません。

では客数はどのように決まるのか。

店舗を例にとると、3種類のお客様がいます。

継続的に来てくれる既存顧客、新たに来店する新規顧客、
そして他店に流れてしまう流出顧客です。

客数 = 既存 + 新規 - 流出

この3つが客数を決める要素です。
売上を増やしたいなら、新規を増やすか、流出を減らすか、
あるいは既存顧客の来店頻度を上げるか、という話になります。

購入金額は「単価」「品数」「頻度」に分解できます。

1週間のどこか1日に7つの商品が売れても、1つの商品が1週間売れ続けても、
単価が同じであればその週の販売金額は同じです。
単価・品数・頻度、この3つが購入金額を決める要素です。

整理すると、売上を増やすための対策はこうなります。

  • 客数:既存顧客の維持、新規顧客の獲得、流出の防止
  • 購入金額:単価の引き上げ、品数の増加、購入頻度の向上

2.最も取り組みやすいのは「流出を止めること」

ここで経営者に問いたいことがあります。
既存顧客維持、新規顧客獲得、流出防止、単価引き上げ、品数増加、購入頻度向上、
この6つの対策のうち、難易度が低くコストもかからないのはどれでしょうか。

多くの経営者は「売上を増やすには新規顧客を獲得しなければ」と考えます。

しかし新規顧客の獲得は、6つの対策の中で最も難易度が高くコストもかかります。
人も資金も限られている中小企業が最初に取り組むべきことではありません。

最も難易度が低くコストもかからない対策は、既存顧客の流出を止めることです。

すでに取引のあるお客様が他社に流れないようにする。
それだけで売上は維持できます。
そしてこれは単なる売上の話ではありません。利益の流出を防ぐ行為でもあります。

新規顧客の獲得には広告費や営業コストがかかりますが、
既存顧客の維持にはそれほどコストはかかりません。
つまり流出を防ぐことは、最も効率よく利益を守る方法でもあります。

最近では、大手企業を定年退職した人材を顧問として採用し、
人脈で新規顧客を開拓しようとする中小企業が増えています。

しかし「人脈だけで仕事がもらえる時代」はもう終わっています。
外部の顧問を使って取れるかどうかわからない新規開拓を図るより、
今いるお客様に、どうやって取引を継続してもらうかを考える方が、はるかに現実的です。

3.売上が増えても、利益が増えるとは限らない

ここまで売上の分解を見てきましたが、重要な前提があります。

それは「売上が増えても、利益が増えるとは限らない」ということです。

利益は次のように決まります。

利益 = 売上 − コスト

つまり、売上を増やしても、それ以上にコストが増えれば利益は減ります。
逆に言えば、
売上を大きく伸ばさなくても、コスト構造を見直せば利益は改善できます。

ここを理解しないまま売上だけを追いかけると、「忙しいのに儲からない会社」になります。

4.売上は出ているのに赤字になる会社

私が支援した企業の中に、長年赤字を抱える事業を持つ会社がありました。
原因を調べると2つの問題がありました。

一つは、代理店が市場を無視した安売りを続けていたことです。
代理店は創業時代から古い付き合いがあり、価格を見直そうとすると社長にクレームが入る。
社員は社長の顔色を見て動くため、誰も問題を正面から解決しようとしませんでした。

もう一つは、製品別の原価を把握していなかったことです。
見積原価と実際の原価が乖離しており、
部品に至っては「売れればよい」という価格設定がされていました。

この企業の製品は品質が高く、20年以上使える耐久性がありました。
それにもかかわらず、部品を積み上げても本体価格の120%程度にしかならない。
自動車の修理部品が本体価格の3倍以上になることを考えると、
利益を取り逃がしていた構造が明らかです。

この企業の問題は、「利益構造」ではなく、売上だけを見ていたことです。
売上を追いかけるだけでは、経営は成り立ちません。

7.次に考えるべきは値上げ

既存顧客の流出を止めた次に考えるべきことは、値上げです。

値上げは単なる売上増加策ではありません。
コスト構造を変えずに利益を改善できる、最も効果の大きい打ち手です。

「懇意にしてくれている取引先に値上げの依頼などできない」という経営者は多いです。

しかし、元請けや仕入れ先にとっても、一定のコスト増で収まるなら、
取引先を変えるより値上げを受け入れた方が合理的なケースは少なくありません。
真摯に状況を説明すれば、必ず検討はしてもらえます。
検討すらしてもらえないのであれば、それは関係の問題です。

長年の取引先に値上げを依頼できない経営者が、
新商品や新市場でコストを回収しようとしても、それは現実的ではありません。
既存顧客が受け入れないものを、新しい顧客が受け入れることはありません。

そして値上げは、数字の上でも非常に大きな効果があります。
次回はその計算例を具体的に見ていきます。


✅次回予告 ~ 値上げと販売数量の増加、どちらが利益に大きなインパクトをもたらすのか。
次回は、具体的な数字で比較します。
「値上げしたら売上が落ちる」という不安に対して、数字で答えを出します。

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