【PMI実務Q&A】第10回 ~ 異業種間のM&AにおけるPMIの考え方
― 重要なのは、グループ経営をどう設計するかという思想 ―
当社は倉庫業ですが、将来的な業務拡大を目指し、運送会社の買収を検討しています。
M&A実施後は、早急に経営統合を図るべくPMI計画を立てていますが、
業種や社風が違うこの2社をどのように統合すれば良いか悩んでいます。
- ① 倉庫業と運送業は一定のシナジーはあるものの、事業モデルや人の前提が大きく異なる
② 異業種PMIで問題になりやすいのは、管理・評価・マネジメントの考え方のズレ
③ PMIは「理解 → 整理 → 方向づけ」の順で進めるのが現実的
④ 異業種M&Aでは、その会社をグループ内でどう位置付け、どのようにグループの成長に貢献させたいのかという構想が成否を左右する
倉庫業と運送業は、同じ物流領域に属しているため、
「シナジーが出しやすい」「比較的分かりやすい異業種M&A」と捉えられがちです。
しかし実務の現場では、
この“分かりやすそうな組み合わせ”こそ、PMIで迷走しやすいというケースを数多く見てきました。
問題は、異業種であることそのものではありません。
「どこまでを統合し、どこはあえて統合しないのか」、
その整理がないままPMIが進んでしまうことにあります。
1.シナジーはあるが、事業モデルと人の前提がまったく違う
倉庫業と運送業は、顧客や荷主との接点は近いものの、
事業の成り立ちや、現場で求められる人材像は大きく異なります。
| 項目 | 倉庫業 | 運送業 |
|---|---|---|
| 収益構造 | 固定費型 | 変動費型 |
| 主なKPI | 工程管理・生産性・ミス率 | 積載率・回転率・遅延率・事故ゼロ |
| 現場で重視されるもの | ルール・標準化・安定稼働 | 現場判断・柔軟対応・個人裁量 |
倉庫業と運送業で求められるものの違いを理解しないまま統合を進めると、
- 人事制度や評価の考え方
- 目標設定や進捗管理のやり方
- 「良い社員」「できる管理職」の定義
といった点で、現場にズレが生じやすくなります。
例えば、倉庫業では「ルールを守り、安定して回すこと」が評価されやすい一方、
運送業では「現場判断でトラブルを回避する力」や、一定の裁量が価値になります。
こうした前提を整理しないまま、管理や評価を一律に適用すると、
- 倉庫側からは「統制が効かない」
- 運送側からは「現場を分かっていない」
という不満が生まれ、PMIは早い段階で行き詰まります。
2.PMIは統合ではなく、マネジメントの問題
PMIでは、「どこまで統合するか」「制度をいつ揃えるか」といった議論になりがちです。
しかし、異業種M&Aにおいて本質的な問題は、統合するか・しないかではありません。
実際に統合を進めようとすると、
人の考え方や働き方が想像以上に違うこと、業務を一体化することが簡単ではないことを、
買収後に経営者自身が実感するようになります。
その結果、
- 「運送会社のマネジメントは難しい」
- 「何から手を付けてよいのか分からない」
という状態に陥り、
結局、何も変えられないまま「そのまま」にしてしまう。
これが、異業種PMIで非常に多い失敗パターンです。
3.異業種PMIは「理解 → 整理 → 方向づけ」の順で
異業種PMIでは、最初にやるべきことを間違えると、統合以前に、経営判断そのものが迷走します。
実務上は、次の順番で進めるのが現実的です。
① まず「相手を理解する」
いきなり制度や評価の話に入るのではなく、
- 何を大切にして仕事をしているのか
- どこで判断し、どこで無理が生じやすいのか
を、経営陣・管理職・現場へのヒアリングを通じて把握します。
これは「仲良くなる」ためではなく、後にマネジメントの線を引くための前提整理です。
② 次に「違いを前提に整理する」
KPIや評価制度を、最初から無理に揃える必要はありません。
一方で、
- 目標設定の考え方
- 進捗管理の仕方
- 結果に対する評価やフィードバック
といったマネジメントの考え方までバラバラでは、グループ経営は成り立ちません。
KPIは違っても、
「どう管理し、どう評価するのか」という枠組みは、
グループとして徐々に整理していく必要があります。
③ 「グループ内での位置付けを明確にする」
その会社を、
- グループの中でどう位置付けるのか
- どのようにグループの成長に貢献させたいのか
この構想を、統合を進める前提として、
経営者自身が言葉にし、経営方針として示しておくことが、
異業種PMIの要になります。
4.成功の鍵は「M&Aの目的(グランドデザイン)」
倉庫×運送は、一見シナジーが描きやすい一方で、成功パターンは実はそれほど多くありません。
例えば、
- 「内製化できそう」という発想だけで買収したケース
- 運送会社を1社買えば足りると考え、物流網全体の設計や追加投資を想定していなかったケース
では、買収後に
- 業務は統合できない
- マネジメントも難しい
- 次のM&Aや投資判断もできない
という状態に陥りがちです。
結果として、運送会社は「別会社のまま放置され」、グループとしての成長戦略も描けなくなります。
問われるのは、何のためにM&Aをするのかという点です。
- 一貫物流を実現したいのか
- 営業価値を高めたいのか
- 将来、物流グループとして拡大したいのか
その目的と将来像が明確であれば、
必要なPMIの進め方、次のM&Aや投資の判断も自然と定まります。
異業種PMIの難しさは、「統合が難しいこと」ではありません。
目的と進め方が整理されないまま、何となくPMIに入ってしまうことにあります。
倉庫×運送のような異業種M&Aでは、
- どこを統合し、どこは統合しないのか
- その会社をグループの中でどう位置付けるのか
を明確にすることが、何より重要です。
異業種PMIの成否は、グループ経営をどう設計するかという「思想」によって決まります。
✅ 次回予告
第11回では、「M&A後の管理業務をどう引き継ぐか」について解説します。
決裁権限・お金・属人業務を“事故なく”移行するための実務に焦点を当てます。


