【PMI実務Q&A】序章 ~ PMI ― 「M&Aのその先」にあるもの―

1.はじめに ― M&Aの波が押し寄せる中で

近年、日本国内のM&A件数は明らかに拡大傾向にあります。
レコフ/MARRの集計によると、2024年の日本企業のM&A件数は4,700件に達し、2023年の4,015件と比べて17.1%増加。これまで最高だった2022年(4,304件)を超え、過去最高件数を更新した年となりました。(出所:2025年1月6日 MAAR Online

M&Aが増加している背景には、中小企業経営者の高齢化や後継者の不在、そして事業の多角化など、さまざまな要因があります。
小規模M&Aマッチングサイト「バトンズ」のM&A成約件数の伸びを見ても分かる通り、今やM&Aは中小企業の間でも毎年増加し、経営の承継や事業成長に際して、一般的に検討される手段となっています。(出所:バトンズ 成約実績


2.思いがけず巻き込まれたM&A

私が初めてM&Aの現場に立ち会ったのは、今から約20年前。
学生援護会とインテリジェンス(いずれも現在のパーソルホールディングス)の経営統合でした。

当時、私は銀行を退職して、ある企業に転職する予定でした。
その企業は半年後に日本へ進出する計画だったため、実際の着任までにしばらく時間がありました。
「せっかくだから、この半年はゆっくり過ごそう」と思っていた矢先、縁あって学生援護会でアルバイトとしてお手伝いをすることになったのです。

学生援護会は、私が銀行員時代にPEファンド(カーライル・グループ)を活用してMBOを実施した、銀行員として最後に担当した案件でした。
問題も多く、業績が伸び悩んでいた同社をファンドに託し、「これでやっと銀行を辞められる」とほっとしていたところ、当時の社長から「中期経営計画の作成だけでも手伝ってほしい」と依頼を受けました。
さらに銀行の部長からも「3か月でいいから力を貸してくれ」と頼み込まれ、「不義理をするわけにもいかないか」と思い、短期間だけお手伝いをすることにしたのです。

ところが、それからわずか2か月後、社長が人材紹介業で急成長していたインテリジェンス(当時JASDAQ)との経営統合を決断します。
「MBOした直後にM&Aとなると、社内の混乱を招きかねない。何とかもう少し手伝ってほしい」と懇願され、そこからほぼ私一人でデューデリジェンス(DD)を担当することになってしまいました。

しかし、そこからが大変でした。
M&Aの準備をしていることを社内で知られないように、「ファンドに提出する資料が必要なので」などと理由をつけて資料や情報を集め、さらに皆が帰った後に経理部や人事部の資料を漁りながらDD対応を進める――。
カーライルや弁護士と深夜から打ち合わせを行い、その後まとめた資料を翌朝一番でFA(ファイナンシャルアドバイザー)に持ち込む。
その合間に、中期経営計画の策定も進めなければなりません。

この期間の作業は、体力的に本当に厳しく、寝る時間はほとんどありませんでした。


3.統合の現場で味わった現実と葛藤

しかし、それ以上に大変だったのが、M&A実施後――つまり PMI(Post Merger Integration:統合プロセス) でした。

同じ「人材サービス業」でありながら、両社はその成り立ち、企業文化、社風、そして従業員の年齢構成までもが大きく異なっていました。 そうした二つの組織をひとつに束ね、このM&Aの目的や背景、そしてこれからどんな会社を目指すのかを社員に理解してもらうことは、想像していた以上に難しいものでした。

特に、学生援護会は「IPOを目指す」という理由でファンドによるMBOを受け入れた会社です。
それが、いきなり同業他社との経営統合――しかも、どちらかというと買収される側(45%:55%)という立場。自分たちの力で東証一部(当時)に上場するという期待が一気に消え、買収されることになったわけですから、旧学生援護会社員たちの怒りや戸惑いはもっともだと思いましたし、私自身も「何のためにMBOしたのか!」と納得できませんでした。

それでも一度引き受けた仕事です。あちらこちらで起きる“爆発”に頭を悩ませながら、私は全国の従業員への説明行脚を重ねました。
また同時に、ミッション・ビジョン・バリューの策定や中期経営計画の見直し、組織・拠点の再構築、人事報酬制度の改定など――新しい会社の枠組みを早急に整えていかなければなりませんでした。

ただ、こうした統合作業の過程では、意思決定の方法やスピード感、判断基準、さらには社員の意識やものの考え方など、私自身の感覚とはあまりに異なる部分が多く、戸惑うことも少なくありませんでした。
今振り返れば、時に苛立ちを抑えきれないこともあり、真摯に社員と向き合えていなかった場面も多かったと反省することが多々あります。

いずれにしても、「M&Aで経営統合できれば、あとは何とかなるだろう」―― そう思って安易に引き受けた自分の考えが、いかに甘かったか……PMIの段階で思い知ることになったのです。

そんなわけで、M&Aが終わるまでと考えていたアルバイトは辞めるに辞められず、そのまま新会社のCFOとして残ることとなり、経営統合から2年以上、新会社に携わることとなってしまいました。


4.これからPMIに向き合う人へ

この【PMI実務Q&A】シリーズでは、
私自身がこれまでの企業経営で経験してきた数々の実例――失敗の方が多いくらいですが、そこから学んだこと――をもとに、
多くの経営者の支援を通じて見えてきたPMIの“現場のリアル”をお伝えしていきます。

「現場でこういう事態が起こった時、どう対処すればいいのか」
「この問題はどう整理し、どう乗り越えるべきなのか」

これらをQ&A形式でわかりやすく紹介しながら、PMIの実践的な知見を共有していきたいと思います。

PMIは、単なる業務の統合方法ではなく、人と組織の「再構築のプロセス」です。
そのためには、統合する企業の冷静な分析と同時に、現場で働く人々の心情を理解するバランス感覚が欠かせません。

このシリーズが、これからPMIに取り組む経営者や支援者の方々にとって、「自分の会社ではどう考えるべきか」を整理するヒントになれば幸いです。


✅ 次回予告
第1回では、「二人の社長」問題にどう向き合う?をテーマに、
PMI初期における“経営体制と役割設計”の基本的な考え方を整理します。

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