【PMI実務Q&A】序章 ~ PMI ―「M&Aのその先」にあるもの―

1.M&Aは終わってからが本番

近年、日本国内のM&A件数は明らかに拡大傾向にあります。

レコフ/MARRの集計によると、
2024年の日本企業のM&A件数は4,700件に達し、過去最高を更新しました。
後継者不在や事業承継、成長戦略の一環として、
M&Aは中小企業にとっても、もはや特別な選択肢ではありません。

一方で、M&Aは「契約が成立すれば終わり」と捉えられがちです。
しかし実際には、本当に大変なのはその後に始まるPMI(Post Merger Integration)です。

制度、組織、文化、そして人の感情。
これらをどう扱うかによって、M&Aの成否は大きく分かれます。

2.思いがけず巻き込まれたM&A

私が初めてPMIに関わることになったのは、今から約20年前のことです。

当時、私は長く勤めた銀行を退職し、ある企業へ転職することを決めていました。
新しい職場への着任は翌年4月。
それまで数か月の時間があったため、「少しゆっくりしよう」と考えていました。

そんな矢先、銀行の部長から
「A社が中期経営計画を作るのを手伝ってくれないだろうか」
と相談を受けました。

どうやら、私が退職の挨拶に行った後、A社の社長から、

短い期間でいいので、中期経営計画の作成だけでも手伝ってほしい

という依頼があった、というのです。

A社は、私がPEファンドとともにMBOを進めた企業で、銀行員として最後のディールでした。
無事MBOを終え、IPOを目指して新たなスタートを切ったばかりの会社です。

銀行の上司からの依頼であり、A社にも思い入れがある。
私は「3か月限定」という条件で、この手伝いを引き受けることにしました。

ところが、同社で手伝いを始めて間もなく、A社の社長から思いもよらない話を告げられます。

当社をB社に売却したい――。

私は思わず社長に詰め寄りました。

「IPOを目指すはずじゃなかったんですか?
なぜ突然、売却する話になるんですか?」

オーナー会社から脱却し、IPOを目指す企業が、まさかこんなに早く売却を考えるとは。
その衝撃は、MBOの成功に力を注いできた私にとって、あまりに大きなものでした。

3.「話が違う」― 想定外の連続

売却の話は水面下で進められ、社員には絶対に知られてはいけない話でした。
MBO直後で売却などと言う話が表に出れば、社員のモチベーション低下や反発は避けられません。

A社の社長からは、

DD(買収前調査)が入るので、対応してもらえないだろうか。
さすがにこのタイミングでは、幹部にも話はできないし反対を受けるはず。
ファンドが買収したばかりだから、DDは重くならないと先方も言っている。

と説明され、結局、ほぼ一人でDD対応をすることになりました。

しかし、実際にはまったく違う展開になりました。
始まったのは、通常以上のフルスケールのDD。しかも、中期経営計画の作成も同時進行です。

当時は、社内資料の多くがまだ紙で保管されていました。
DDに対応するため、過去の契約書や決算関連資料、稟議書類などを探すのですが、
そもそも「どこに何があるのか」が分からない。

歴史の長いオーナー会社で、資料管理は完全に属人的。
担当者本人しか所在を把握していない資料も多く、
今であればすぐに見つかるような資料が、一晩中探しても見つからないということが続きました。
加えて、紙の資料はすべてコピーしなければなりません。それだけでも膨大な時間がかかりました。

DDが始まってからの私は、
社員が帰った後に社内資料を集め、夜通し対応を続ける日々が常態化していました。
深夜にはファンドや弁護士との打ち合わせが入り、
明け方に資料をFAへ持ち込んだ足で、そのまま出社する。

そうした生活が、2か月近く、一日の休みもなく続いていました。

後になって分かったのですが、
B社は直前のM&Aで大きな失敗をし、その反省から慎重なDDを行うことにしたようです。

そんな事情を知らない私は、
「話が違う」「聞いていない」ことの連続に、苛立ちとストレスを募らせていました。
それでも、この局面で頼れる人はおらず、途中でやめるという選択肢もありませんでした。

4.買収後に始まる、本当の難所 ― PMIという現実

買収が無事終わり、
「これで少しは落ち着くだろう」
そう思った私の考えは、すぐに甘かったと分かります。

A社とB社は、同じ業界に属していても、文化も価値観も、働き方もまったく異なっていました。

A社は業界の老舗で、社員の平均年齢は40代半ば。典型的なオーナー企業です。

A社の社員には、

  • IPOを目指していたのに、なぜ売却なのか
  • なぜ“買われる側”なのか
  • 何のためにMBOしたのか

という不満や不安が渦巻いていました。

一方、B社は若手中心の新興企業。

  • M&Aを重ねて規模を拡大する
  • 皆で必死に働き、もっと良い生活を手に入れる
  • この買収で一気に業界トップを狙う

という、体育会系のイケイケな社風でした。

PMIで本当に難しかったのは、制度の統合ではありません。

A社2,400名、B社1,600名、計4,000名の従業員を抱える、
社風も価値観も異なる組織をどう再構築するか。

人の感情のぶつかり合いを乗り越え、
それぞれが納得できる未来像を、どう束ねていくかでした。

私は全国を回って説明を重ね、反発を受けながら、
ミッション・ビジョン・バリューの策定、人事制度の見直し、
組織再編、中期計画の再構築に向き合うことになりました。

この経験こそが、
その後、私が企業の統合や事業再生・成長支援という仕事に深く関わる原点となったのです。

5.これからPMIに向き合う人へ

この【PMI実務Q&A】シリーズでは、
私自身の経験と、多くの経営者支援を通じて見えてきた
PMIの「現場のリアル」 をお伝えしていきます。

PMIは、単なる業務の統合方法ではなく、人と組織の「再構築のプロセス」です。

このシリーズが、これからPMIに取り組む経営者や支援者の方々にとって、
「自分の会社ではどう考えるべきか」を整理するヒントになれば幸いです。

✅ 次回予告
第1回では、「二人の社長」問題にどう向き合う?をテーマに、
PMI初期における“経営体制と役割設計”の基本的な考え方を整理します。

☞ PMI支援の詳細はこちら

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です