【PMI実務Q&A】第5回 ~ M&A後の従業員面談 ― 何を伝え、どう向き合うべきか

― Day1が、PMIの成否を決める ―

質問5:

M&A後は、相手企業の従業員とのコミュニケーションを密にすべきだと言われました。
しかし、実際に「何を、どこまで話していいのか」迷っています。
これからの方針などまだ決まっていないことも多く、下手に話すと混乱を招くのではないかという不安もあります。

このような状況で、経営者としてどのように従業員と向き合い、何を伝えるべきでしょうか。

M&A後、最初に直面するのが「従業員への説明をどうするか」という課題です。
何をどこまで伝えるべきか、迷う経営者も多いでしょう。
本稿では、Day1(統合初日)に経営者が伝えるべき内容と、その後の現場コミュニケーションの進め方を整理します。


1.Day1で最優先すべきは「不安の解消」

M&A直後の従業員は、「自分の雇用」「待遇」「会社の将来」に強い不安を抱えています。
この時期に経営者が何をどう話すかで、職場の空気は大きく変わります。

統合初日のメッセージは“即興”ではなく、綿密な準備が必要です。
何を、どの順番で、どんな言葉と表情で伝えるのか。
その“第一声”が、PMIの方向性を決める可能性があります。


2.Day1に経営者が伝えるべき3つのポイント

(1)M&Aの目的と今後の方向性を明確にする

「なぜM&Aを行ったのか」「どんな会社を目指すのか」を、経営者自身の言葉で伝えましょう。

「今回のM&Aは、単なる資本提携ではなく、〇〇事業を将来の柱に育てるためのものです。」
「従来の強みを活かしながら、グループの技術・販売ネットワークを共有し、事業の安定と成長を実現します。」

大切なのは、経営者自身がどんな未来を描き、その実現に向けて本気で取り組む覚悟があるかを伝えることです。
きれいな説明よりも、「なぜその判断に至ったのか」「どんな課題を一緒に乗り越えたいのか」という思考の背景を語ることで、従業員の信頼を得られます。


(2)“変わること/変わらないこと”を整理して伝える

すべてを曖昧にせず、「当面変わらないこと」を明確に示すことで、従業員の不安を和らげます。

「皆さんの基本的な雇用条件や勤務体制は、当面変わりません。」
「社名や取引関係も、現時点では変更の予定はありません。」

「当面ということは将来変わるのですか?」と聞かれたら、

「事業環境の変化に応じて見直す可能性はあります。ただ、その際はしっかり説明します。」

と率直に答えましょう。

M&Aは“変化に耐える力を高めるための手段”です。
だからこそ、買収側・被買収側の双方が「今のままではいけない」という認識を共有し、同じ目線で変化に向き合う姿勢を示すことが重要です。


(3)“わからないこと”は正直に伝える

M&A実施直後は、相手企業の実態を十分に把握できていないことも多いものです。
しかし、「決まっていないことが多いから何も話さない」という対応は逆効果です。

「まだ方向性を検討中です。決まり次第、きちんとご説明します。」

中途半端な期待を持たせるより、現時点で言えることを丁寧に伝える方が誠実です。
経営者が誠意をもって向き合えば、従業員は「嘘はついていない」「新しい経営者は本気だ」と感じ取ります。


3.Day1以降の現場コミュニケーションで意識すべきこと

(1)“話す”より“聴く”

買収先が経営難にあった場合、面談では不満や不信感が噴き出すこともあります。
まずは受け止める姿勢を示しましょう。

「これまでの経緯はわからない部分もありますが、今後どう改善できるかを一緒に考えたいと思います。」

感情的に反応せず、事実確認を丁寧に行う姿勢が信頼を生みます。
また、話したがらない人に無理に発言を求める必要はありません。
時間をかけて信頼を築く中で、本音が見えてくることも多いものです。


(2)要望にはスピーディーに対応する

面談で出てきた要望や不安に対しては、できるだけ早く対応することが大切です。
とくに、職場環境や日常業務に関わる改善は、スピード感を持って動くことで、現場の安心感につながります。

たとえば──

  • 暗い照明の交換
  • 壊れたロッカーや扉の修理
  • 動線の見直し
  • 備品の補充

こうした小さな改善であっても、実際に目に見える変化が起きると、
従業員の受け止め方は大きく変わります。

ここで重要なのは、
従業員に“成功体験を味わわせること”が目的ではないということです。

むしろ、
「新しい経営者は、私たちの声をちゃんと聞いて、実際に動いてくれる」
という実感を持ってもらうことが、PMI初期における最も大切なポイントです。

そして、その行動が積み重なることで、やがて従業員の中に、
「この経営者が進めることなら、きっと確かな方向に向かうはずだ」
という信頼へとつながっていきます。

大きな制度改革を、M&A直後から一気に進めるのは現実的ではありません。
検討にも時間がかかり、現場に混乱を生む可能性もあります。

だからこそ、まずは手が届くところから、改善と信頼の積み重ね を始めることが重要です。
日々の小さな前進こそが、PMI初期の組織に最も強い安心材料をもたらします。


(3)フォローを継続する

統合初期の2〜3か月は、月1回程度のフォローが理想です。
形式にこだわらず、短時間の雑談やランチなど、接点を増やすことを意識しましょう。

1回当たりの時間よりも、頻度を重視し、
「何かあれば、いつでも話せる雰囲気」をつくることが、安心感と定着につながります。


4.最初の一言がPMIの成否を決める

M&A後の初期対応で最も大切なのは、Day1を迎える準備です。
何をどう伝えるか、どんな順番で、どんな表情で話すか。
その最初の一言で、職場の空気が決まり、PMIの流れが変わります。

「伝える力」よりも「聴く力」
「説明すること」よりも「寄り添うこと」

Day1で信頼の“種”をまき、現場での対話でそれを育てていく。
この地道なプロセスこそ、PMI成功への第一歩です。


次回予告
第6回では、「M&A後の離職防止― 最初の1年間で押さえるべきポイント」として、制度変更時の説明責任や現場マネジメントのポイントを解説します。

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