【PMI実務Q&A】第3回 ~ 買収先に派遣する人材の選定と役割設計

― 現場経験よりも、“関係構築力と誠実さ”が成果を左右する ―

質問3:

当社は北関東に本社を置く製造業です。
このたび、隣県にある同業でやや規模の小さい製造会社をM&Aにより子会社化しました。
今後、当社の役員や幹部社員を現地に派遣し、経営再建や体制整備を進める予定です。

買収先の社員と良好な関係を築きながら、統合を円滑に進めるには、
どのようなタイプの人材を派遣すればよいでしょうか?
また、派遣前に行うべき準備や注意点があれば教えてください。

M&A後のPMIでは、「誰を現場に派遣するか」が成果を大きく左右します。
特に中小企業の統合では、業務をいかに統合するかよりも、
派遣する人材の姿勢と関わり方が成功のカギを握ります。

以下では、買収先に人材を派遣する際に押さえるべき4つのポイントを、実務経験に基づいて整理します。


1. スキルよりも「姿勢」― 現場を尊重し、信頼を築ける人を派遣する

PMI初期に最も重要なのは、専門スキルではなく、現場にどう向き合うかという姿勢です。
経験豊富な人材を送り込んでも、「自分のやり方」を押しつければ現場の反発を招きます。
とくに職人気質の現場では、外部から来た人間に対して強い警戒心を持つのが一般的です。

派遣人材の最初の役割は、現場を理解し、信頼を得ることです。
業務の流れや人間関係を把握しないまま改善提案を行えば、混乱を引き起こします。
まずは現場のリーダーやキーパーソンと丁寧に対話を重ね、
敬意をもって接しながら相手の考えや背景を理解し、課題を整理することが出発点です。


2. 「任せる」と「放置する」の間に、仕組みを置く

買収先の現場を理解しようとする姿勢は不可欠ですが、
相手企業のやり方をそのまま受け入れてしまうと、PMIの目的は果たせません。
現場の慣習や非効率を是正し、組織の基盤を整えることが派遣人材の使命です。

ただし、中小企業ではPMI経験を持つ人材はほとんどおらず、
工程や品質といった“モノの改善”はできても、
人の心理や組織の問題まで正しく捉えられる人材はほとんどいません。

その前提を踏まえると、派遣人材にすべてを任せるのではなく、
本社がPDCAを主導する仕組みを整えることが不可欠です。
派遣人材は現場の観察・報告を担い、本社が統合方針に沿って指示・確認・修正を行う。
この一連のサイクルを継続的に回すことで、PMIの軌道修正と一体感が保たれます。

実施のポイント:

  • PMIプランを文書化し、目的・手順・指標を明確にする
  • 派遣人材に週次または月次で進捗・課題を報告させる
  • 本社側が報告内容を検証し、必要な助言や方向修正を行う
  • PMIの進捗に応じた適切な頻度で、本社と派遣人材が定例ミーティングを実施する。

このように、PDCAを意識した定期的な関与の仕組みを持つことが、
派遣人材を孤立させず、PMIを確実に前進させる鍵となります。
経営陣が直接関与できない場合は、外部ファシリテーターによるモニタリングを活用してもよいでしょう。


3. 派遣前の準備 ― 最低限のマネジメントの基礎を学ばせる

中小企業のPMIでは、「業務の統合」が主な目的となることが多く、
そのため現場をよく知る技術系・製造系の人材を派遣するケースが一般的です。
しかし、こうした人材は職人気質が強く、柔軟なマネジメントを苦手とする傾向があります。

たとえば製造業では、スキルと経験が年次に比例するため、
社内では年功序列的なマネジメントでも大きな摩擦は起きません。
ところが、まったく文化の異なる他社に同じ方法で接すると、
「言い方がきつい」「上から目線だ」などの不満が噴出し、衝突を招きます。

したがって、派遣前には人材の見極めと教育が不可欠です。
専門スキルの有無だけでなく、他社の文化や価値観を理解し、
相手を尊重しながら協働できる姿勢を持っているかを見極める必要があります。
あわせて、派遣予定者には基本的なマネジメントの考え方を理解させ、
異なる組織の中で円滑にチームを動かせる土台をつくっておくことが重要です。

このような教育は、社内だけで完結させるよりも、外部の研修を活用する方が効果的です。
たとえば、東京都中小企業振興公社では以下のような実践的な研修を無料で実施しています。

また、公社ではPMIに関する個別相談や支援プログラムも利用できます。
こうした研修や相談機会を事前に活用することで、派遣人材は
組織の動かし方、改善活動のプロセス、人材マネジメントの基本的な考え方を習得できます。

このように、現場経験だけに頼らず、マネジメントの基礎を学ばせる準備を行うことが、
派遣人材が現場で孤立せず、相手企業と協働できる土台になります。


4. 「丸投げ禁止」― PMIプランを全社で実行し、現場を支える

PMIを成功させる最大の要因は、事前に明確なPMIプランを作り、それを現場で確実に実行することです。
派遣人材の力量に頼るのではなく、経営陣が主導して統合の方向性を定め、
現場で実行できる仕組みを整える必要があります。

PMIには、実は3つの段階があります。
それは、「意識の統合」「経営の統合」「業務の統合」の3つです。
中小企業は、業務の統合(システム・工程・帳票など)にばかり注力しがちですが、
異なる組織が一つの方向に進むためには、まず「意識の統合」が欠かせません。

組織文化や価値観の違いを放置したまま業務だけを統合しても、
社員の間に不信感が残り、最終的には経営の統一も難しくなります。
しかも、この「意識の統合」は時間がかかるうえに、最初のアプローチを誤ると後から取り返しがつかないのが現実です。
だからこそ、本社は現場を放置せず、伴走し続ける体制を持つ必要があります。

PMIプランは単なるスケジュール表ではなく、

  • 現場でどんな障壁(文化差・人間関係・制度の違い)が起こりうるか
  • 問題が起きたときに、誰が・どのように対応するか
    を具体的に想定して設計すべきです。

派遣先での統合作業や現場対応を、本社が的確にサポートできる体制をつくる。
本社が現場を継続的に支えることで、PMIは着実に前へ進みます。

M&Aの現場では、クロージングが完了した時点で「仕事が終わった」と考える経営者も少なくありません。
しかし、本当の統合はクロージング後から始まります。
買収の目的であるシナジーは、PMIが機能して初めて得られます。
統合が失敗すれば、買収そのものが無意味になってしまいます。

PMIは、経営陣・事業責任者・派遣人材が役割を分担し、
全社一体で進めるプロジェクトとして取り組むべきものです。
派遣人材に丸投げするのではなく、本社が現場に伴走し続けること。
それが、PMIを成功に導く唯一の方法です。

※なお、PMIの「意識・経営・業務」の3つの統合については、
本稿では触れきれませんでしたが、今後別の機会に詳しく解説したいと思います。
ご関心のある方は、お気軽にお問い合わせください。


次回予告
第4回では、「組織力の低い企業同士の統合をどう進めるか?」について解説します。

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