なぜ売上目標は、いつも達成できないのか ~「目標」と「行動」がつながらない本当の理由
~ 中小企業の社長が知っておくべき『目標・KPI・利益』の考え方|第2回
前回、着付け教室や無料点検の話を通じて、
「行動できる目標」と「そうでない目標」の違いを整理しました。
では、なぜ多くの会社では目標が「行動できる形」になっていないのでしょうか。
今回はその構造的な理由を掘り下げます。
「今月の売上目標は、○○万円です」
多くの会社で、毎月のようにこの言葉が掲げられています。
しかし、その目標が当たり前のように達成され続けている会社は、決して多くありません。
月初は気持ちが入る。
月中になると、少し雲行きが怪しくなる。
月末には、「今回は仕方ない」という空気が漂う。
そして翌月、また新しい目標が掲げられる。
この繰り返しに、心当たりのある社長も多いのではないでしょうか。
1.なぜ目標は、達成できないのか
売上目標が達成できない理由を聞くと、多くの社長はこう答えます。
市場環境が厳しい。
景気が悪い。
人手が足りない。
もちろん、それらが影響している場合もあります。
しかし現場を丁寧に見ていくと、もっと根本的な原因が見えてきます。
それは、目標が「行動につながる形」になっていないという点です。
「今月は売上○○万円」。この数字自体は間違っていません。
問題は、その数字を見たときに、
現場の社員が「何を、どれくらい、どのように」やればいいのか。
それが明確になっていないことです。
結果として、目標は掲げられているのに、日々の行動は先月とほとんど変わらない。
これでは、達成できないのも当然です。
2.日本企業の目標設定に潜む構造的な問題
ここで少し立ち止まって、目標の「作られ方」を見てみましょう。
多くの中小企業では、
前年対比5〜10%増といった形で、根拠よりも雰囲気で目標が決まります。
なかには、
「どうせ達成できないなら、発破をかける意味でも高く設定した方がいい」
と考える経営者もいます。
社員は「わかりました、頑張ります」と答え、
月末には「必死にやりましたが、力が及びませんでした」と頭を下げれば許される。
そういう暗黙のルールが出来上がっている会社は、少なくありません。
これは、個人の問題ではなく構造の問題です。
一方、外資系企業や一部の上場企業では、
目標は経営者と社員が真剣に交渉して決まります。
設定する側と設定される側が対等に数字の根拠を詰める。
なぜなら、目標の達成度が報酬や評価に直結するからです。
目標に根拠がなければ、達成する方法論も「気合と根性」になります。
そしてその結果、
「朝礼で毎日数字をチェックする」
「PDCAを回している」
という言葉が飛び交うだけで、現場の行動は変わらないままになります。
3.売上は「プロセスの最後」に現れる数字である
ここで、売上の構造を冷静に整理してみましょう。
売上は次のプロセスの最後に現れます。
行動 → 反応 → 意思決定 → 購入
社員が電話をかける(行動)、
顧客が話を聞く(反応)、
顧客社内で検討される(意思決定)、
最終的に発注される(購入)。
この最後に現れる数字が「売上」です。
では、この4つのうち、社員が直接コントロールできるのはどこでしょうか。
行動はコントロールできる。
反応・意思決定・購入は、相手側の判断であり、直接はコントロールできません。
社員が確実に握れるのは「行動」だけです。
にもかかわらず、
プロセスの最終段階である売上だけを目標にすると、現場は迷います。
行動量を増やすべきなのか、
提案内容を変えるべきなのか、
顧客層を変えるべきなのか。
改善すべき箇所が特定されないまま、
「とにかく頑張る」という方向に流れていく。
これが、目標が"掛け声"になる構造です。
4.目的と目標が整理されていない会社の問題
もう一つ、見逃せない問題があります。
それは「目的」と「目標」の混同です。
売上を伸ばす。利益を増やす。
これらは重要ですが、それ自体は「目的」ではなく、結果です。
本来の目的とは、
なぜこの事業をやっているのか、
どんな価値を提供したいのか、
誰に何を届けたいのか、
という意思の部分です。
目的が言語化されていないまま、いきなり売上目標の数字だけが置かれると、
目標は単なるノルマになります。
ノルマはやらされ感を生み、
やらされ感は短期的な数字合わせを生み、
その結果、組織は疲弊します。
第1回で触れた「社長が一番頑張っている会社」になってしまうのは、
この延長線上にあります。
5.目標は「コントロール可能な行動」であるべき
売上は社員が直接コントロールできる数字ではありません。
しかし目標として掲げているのが「売上」という最後の数字だけだと、
現場はこうなります。
もっと頑張る、
もっと動く、
とにかく案件を追う。
しかし、それが成果につながる保証はありません。
コントロールできない数字を目標にしているからです。
目標は、本来こうあるべきです。
やり切れば、必ず達成できるもの。
第1回で紹介した着付け教室の2回開催や無料点検40社がまさにそれです。
これらは外部環境に左右されません。
やったか、やっていないかが明確です。
社員には、自分の努力で完遂できる指標が必要なのです。
では、その「行動できる指標」をどう設計するのか。
ここで重要になるのがKPI(Key Performance Indicator)という考え方です。
売上という最終結果に至るまでのプロセスの中で、
成果を左右する"鍵となる行動"を特定し、それを数値化する。
売上を目標にするのではなく、売上を生む行動を目標にする。
この転換がなければ、目標はいつまでも「掛け声」のままです。
6.社長の頭の中を構造化する
社長の頭の中には、
「このくらい動けば、このくらい売れるはずだ」
という仮説があります。
それを工程に分解し、歩留まりを仮置きし、必要行動量を逆算する。
この作業を通じて、目標は「祈り」から「設計」に変わります。
最初からこの作業を完璧にしようとする必要はありません。
仮説を立て、実行し、データを取り、修正する。
この循環こそが、組織を強くします。
売上目標が達成されない原因は、
社員の能力不足でも、モチベーション不足でもありません。
売上という「結果」と、
現場がコントロールできる「行動」が論理的につながっていないこと。
ここをつなげるための設計思想が、KPIです。
目標を「掛け声」から「判断基準」へ。
そして「設計図」へ。
ここから、組織は変わります。
✅次回は、
売上をどう工程分解するか、
歩留まりをどう置くか、
KPIをいくつに絞るべきか、
具体的な設計手順を整理します。
経営は、祈りではなく設計です。



