【PMI実務Q&A】第4回 ~ “仕切れる人がいない”PMIをどう進めるか

― 現場を動かすための計画と会議体のつくり方 ―

質問4:

当社はM&Aを検討中ですが、自社にも相手にもPMIを仕切れるような人材がいません。
そもそも当社の現場管理力も十分ではなく、改善すら思うように進まない状況です。
相手企業も、おそらく実態は同じような状況だと思われます。

このように、社内に優秀な人材がいない中小企業同士の統合を、
どのように進めれば成功に近づけることができるでしょうか?

「優秀な人材がいない中小企業にはPMIをうまく進めることができないのではないか」と考える経営者も少なくありません。
しかし、たとえ大手企業であっても、M&Aの経験が豊富で統合作業を仕切れる人材はそう多くありません。
つまり、PMIを成功させるために必要なのは、優秀な人材よりも、今いる人員で機能する仕組みを整えることです。

ここでは、そのような「仕切れる人がいない現場」でPMIを前に進めるための、
3つの実践的ステップを整理します。


1. “何を統合し、何を統合しないか” ― 運営方針と統合の範囲を決める

PMIの最初にやるべきことは、買収した企業の運営方針を決めることです。
方針を決めないまま進めると、統合の範囲も深さも曖昧になり、現場が混乱します。

例えば、買収した企業を次のように運営するかによって、統合の方法は大きく変わります。

  • 子会社として独立運営するのか
  • グループ内の一事業として統合するのか
  • 段階的に統合を進めていくのか

たとえば、買収した企業が全く異業種で、子会社として独立運営する方針であれば、
当面は、業務やシステムを統合する必要があまりないかもしれません。
しかし、グループとしての方向性を共有し、目標や進捗を確認する仕組み(会議・報告制度)や、
目標達成に対する評価ルールなどは整備しておく必要があります。

目標設定や評価の仕組みは企業によって異なるため、
制度の設計意図や運用方法を明確に示し、丁寧に説明して理解を得るプロセスが欠かせません。

一方で、同業種や関連事業のM&Aの場合は、
業務フローやシステム、人事制度などについて、一定の統合を早期に進める必要があります。
ただし、その場合もすべてを一度に行うのではなく、
どの段階で、何を、どのように変えていくのかを整理し、計画的に実施することが重要です。

この「統合の方針・範囲・タイミング」を最初に決めることで、
経営会議や現場ミーティングで扱うテーマが明確になり、PMIの進め方がぶれなくなります。


2. 中小企業では「経営統合会議」を設けて、テーマ別に議論する

大企業では、ステアリングコミッティ(統合委員会)や分科会といった会議体を細かく設けてPMIを進めるのが一般的です。
しかし中小企業では、そもそも規模が小さく、関与できる人員が限られています。

それでもPMIを進めるためには、「経営統合会議」のような場を設け、
テーマに応じて課題を整理し、具体的な進め方を決めていくことが重要です。

テーマ主な内容想定メンバー
経営・管理組織、人事、会計、方針社長、管理部門責任者
製造・業務生産、品質、システム現場リーダー、工場長
営業・販売販売戦略、顧客対応、価格営業責任者、経営幹部

多くの中小企業では、大企業のようにテーマごとに異なる人材を配置することは難しく、
同じ管理職やメンバーが複数の領域を兼務しているのが実情です。
ですから、会議体をあまり細かく分ける必要はありません。

重要なのは、会議体の形式や人数の多さではなく、
業務やテーマごとに「課題は何か」「それをどう解決するか」「どのように進めるか」を明確にすることです。

進捗確認の場は、統合後2〜3か月は週1回、または隔週で設けるのが理想です。
動きが落ち着いてきたら月1回に頻度を落として構いません。

重要なことは、定期的に

  • PMIが計画通りに進んでいるか
  • 進んでいない場合はどこに原因があるか
  • それをどう修正して進めるか

を、経営陣や責任者が確認し、短いサイクルでPDCAを回すことです。
この「PDCAを継続的に回す仕組み」をつくることが、PMIを成功させる最大のポイントです。


3. 国の「PMIガイドライン」を参考に進める

中小企業庁では、PMIの進め方を体系的にまとめた「PMIガイドライン」を公開しています。
統合の範囲の考え方や会議体の設計など、実務にすぐ使える内容です。

🔗 中小企業庁「PMIガイドライン」

このガイドラインは中堅・大企業も対象として作られていますが、
中小企業では、その中から「自社に必要な部分だけを選んで」実施すれば十分です。


4. 外部支援をうまく活用する

「計画を作ってPDCAを回せ」と言われても、初めてM&Aを実施する経営者や事業責任者にとっては、何から手をつけていいのかわからないものです。
そんな時は、外部支援をうまく活用するのも一つの方法です。

外部支援というと、「コンサル会社に頼まないといけない」「費用がかかりそう」と感じるかもしれません。
しかし、実は自治体や公的機関にも、無料で相談できる支援窓口があります。

たとえば東京都なら、東京都中小企業振興公社でPMI相談が無料で受けられます。
その他の地域でも、商工会議所や事業承継・引継ぎ支援センターなどが、PMIの計画づくりや進め方についてアドバイスを行っています。

人も資金も限られる中小企業では、こうした公的機関の専門家を「仕組みづくりの伴走者」として活用することで、効率的かつ現実的にPMIを進めることができます。


次回予告

第5回では、「M&A後の従業員面談 ― 何を伝え、どう向き合うべきか」について解説します。
M&A後の不安が最も高まるのは“人”の部分。
どのように意図を伝え、信頼関係を築いていくか――その実践ポイントを整理します。

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