M&Aのリアル:売却をゴールにすると何が起こるのか?

M&Aは「売ったら終わり」ではありません。
むしろ、本当の課題は売却後に訪れます。

今回は、ある経営者のM&A事例を通して、売却後のことを考えずにM&Aを進めてしまうと、どんなことが起こるのかを解説します。


1. 経営者の後悔

数年前、ある経営者からM&A後のPMIについて相談を受けました。

🗣 「買収した社長のマネジメントスタイルがうちとは全然違う…」
🗣 「従業員も『この人が社長?』『こんな経営スタイルなの?』と戸惑っている」
🗣 「このままだと、みんな辞めてしまうのではないか…」

普通は、PMIといえば買収側の経営者の仕事です。
しかし、相談してきたのは、M&Aで会社を売却した側の経営者でした。

どうやら、買収企業の方針や社長のマネジメントスタイルを十分に理解せずに売却を決めてしまい、譲渡後に想定外の事態が発生してしまったようなのです。


2. 想定外の事態とは?

この経営者が直面した問題は、買収側と売却側の文化や経営スタイルの違いによる混乱でした。

具体的には…

✅ 売却企業では、従業員の意見を尊重するボトムアップ型の経営が行われていた。
✅ 一方で、新社長はトップダウン型で、すべての意思決定を自分で下し、従業員には指示のみを与えるスタイルだった。
✅ 新社長は売却企業の事業を十分に理解しておらず、従業員の相談にも的確に答えられず、さらに積極的に意見を言う従業員を疎ましく思っていた。
✅ 「言われたことだけやればいい」という姿勢が従業員の士気を低下させ、退職を考える人も出てきていた。

本来、こうした問題を防ぐためには、M&A交渉の段階で相手企業の情報をできる限り集め、社長同士で十分な話し合いを行う必要があります。

もちろん、どれだけ話をしても表面的な部分しか分からないかもしれません。
しかし、大切な従業員や取引先を任せるのですから、最低限の確認は必要です。

ところがこの経営者は、M&A仲介会社に任せきりにしていたため、買収企業の社長とじっくり話す機会を持てませんでした。

さらに、買収側の社長もPMIの重要性を理解しておらず、買収後は「自分のやり方で経営できる」と考えていたようです。


3. 焦りが生んだ落とし穴

この企業は、地元でも歴史があり、業績も安定している会社でしたが、経営者には後継者問題がありました。

そこで、

✅ 社内で後継者を育てようとしたものの、適任者が見つからず、最終的にM&Aでの売却を決断。
✅ M&A仲介会社に相談し、買い手からのオファーを待つことにした。

すぐに良いオファーが来ると思っていたものの、実際はなかなか話が進みません。

✅ 市場での評価が想定より低く、良い買い手がなかなか見つからなかった。
✅ 「本当にM&Aが成立するのか…?」と経営者は焦り始めた。

そんな中、ようやくある買収企業が手を挙げてくれました。
経営者は、長く待たされたこともあり、安堵の気持ちから

🗣 「この買い手で何とか話を決めたい」

と考えたのです。

ただ、その焦りから、

📌 「細かいことを聞きすぎると、M&Aが破談になるのでは?」と懸念し、
📌 買収企業の経営方針や社風について確認することなく、交渉をすべて仲介会社に任せてしまったのです。

こうして、買収側の社長と十分な対話ができないまま、M&Aが成立してしまいました。


4. 売却後、前社長にできることは何もない

M&Aが成立した後、会社の経営は新社長に引き継がれます。

📌 株式を売却した前社長には、もう口を出す権利はありません。

「もっと相手を見極めるべきだった」と思っても後の祭りです。

とはいえ、初めてM&Aを経験する経営者にとって、
どこまで相手と話し合うべきか、どの範囲を仲介会社に任せるべきかを判断するのは、決して簡単ではありません。


5. M&Aを成功させるために必要なこと

📌 こうした事態を避けるために、まず以下の2つが非常に重要です。

M&A仲介会社に依頼する前に、「なぜM&Aを行うのか」という目的を明確にし、戦略をしっかり立てる。
公的機関の窓口や、小規模M&Aに詳しいコンサルタントにまず相談する。

M&Aのプロセス自体は、「株式を譲渡すれば終わり」です。
しかし、経営者がM&Aを行う目的は、多くの場合、企業を存続させることのはずです。

そのためにも、「誰に任せるか」ではなく、**「どんな未来を実現したいか」**を最初に考えるべきです。

📌 M&A仲介会社にすべてを任せるのではなく、あくまで「自分の経営判断の補助役」として使いましょう。

初めてのM&Aでは、
・仲介会社を使うべきかどうか
・どこまで任せるべきか
・何を確認すべきか
など、分からないことだらけです。

だからこそ、最初の一歩は、公的機関など中立的な窓口に相談することを強くおすすめします。

ちなみにこの事例では、売却企業の経営者の懸念を受け、私を交えて買収側の社長との三者で話し合いを行うことができました。

買収側の社長も、

📌「せっかく買収した企業の価値が、従業員の離職や顧客離れによって損なわれては元も子もない」

という点を理解し、従業員や取引先との丁寧なコミュニケーションの重要性にも意識を向け始めたところです。

まだ道半ばではありますが、社内の空気も少しずつ落ち着き始め、
従業員のモチベーションも回復しつつあります

今後、双方が協力しながらPMIを進めていくことで、さらに状況が改善していくことが期待されます。


まとめ

📌 事業の継続を目的としたM&Aは、「売ったら終わり」ではありません。
買収後の従業員や取引先のことを考え、納得できる相手と交渉を進めることが重要です。
まずは公的機関の無料窓口に相談してみることをおすすめします。

M&Aを成功させるためには、慎重な準備と、十分な対話が不可欠です。

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